まず、日本の工業を理解する上で最も重要なキーワードが「太平洋ベルト」です。
関東地方の東京湾岸から、東海地方、近畿地方、瀬戸内地方を経て、九州地方北部に至る、太平洋沿岸に連なる一帯の工業地域のことです。
この帯状の地域に、日本の工業生産額の約半分が集中しています。
日本は鉄鉱石や石油といった工業の原料・燃料のほとんどを海外からの輸入に頼っています。
そのため、巨大なタンカー船が着岸できる港を作りやすい太平洋沿岸の臨海部に、製鉄所や石油化学コンビナートといった大規模な工場が立地しました。
作った製品を国内の他の地域や、海外へ船で輸送するのにも非常に便利です。
東京、名古屋、大阪といった巨大な都市(大消費地)があり、作った製品を買ってくれる人がたくさんいます。
多くの人口が集中しているため、工場で働く人(労働力)を確保しやすいです。
このように、太平洋沿岸は工業が発展する上で、非常に条件の良い場所だったのです。
太平洋ベルトの中でも、特に生産額が大きく、歴史的にも日本の工業化をリードしてきたのが「四大工業地帯」です。
| 工業地帯名 | 中心となる場所 | 特徴 | 主な工業製品 |
|---|---|---|---|
| ① 京浜(けいひん)工業地帯 | 東京湾岸 (東京~横浜・川崎) |
● 日本最大の工業地帯。 ● 出版・印刷業が東京に集中しているのが特徴。 ● 多様な工業が集まる総合的な工業地帯。 |
● 出版・印刷(東京) ● 化学工業(川崎) ● 鉄鋼、自動車(横浜) |
| ② 中京(ちゅうきょう)工業地帯 | 伊勢湾岸 (愛知県中心) |
● 機械工業の割合が非常に高い(全体の約7割)。 ● トヨタ自動車を中心とした自動車産業が特に有名。 ● 現在、工業生産額は日本一。 |
● 自動車(豊田市など) ● 航空機 ● 石油化学(四日市市) |
| ③ 阪神(はんしん)工業地帯 | 大阪湾岸 (大阪~神戸) |
● 歴史的に中小企業の割合が高い。 ● 戦前は生産額日本一だったが、地盤沈下や工場の海外移転で地位が低下。 ● 近年は、医薬品や電気機械などの先端技術産業に力を入れている。 |
● 金属工業 ● 化学工業 ● 医薬品 |
| ④ 北九州(きたきゅうしゅう)工業地帯 | 福岡県北部 |
● 日本の近代工業化発祥の地。 ● 近くの筑豊炭田の石炭と、中国からの鉄鉱石を利用した官営八幡製鉄所を中心に発展。 ● 鉄鋼業の衰退(エネルギー革命)とともに地位が低下。 ● 近年は、自動車産業(「カーアイランド九州」)やIC(集積回路)産業が盛ん。 |
● 鉄鋼 ● 化学工業 ● 自動車、IC(集積回路) |
四大工業地帯は日本の工業の中心ですが、その勢力図は時代と共に変化しています。
かつては阪神や北九州が日本の工業をリードしていましたが、重工業中心の構造から転換が遅れ、その地位は相対的に低下しました。
一方で、自動車産業の発展を背景に中京が大きく成長し、現在では日本一の工業地帯となっています。
四大工業地帯の周辺や、それらをつなぐように、新しい工業地域も発展しています。
● 東海工業地域:中京工業地帯の東側、静岡県に位置します。
楽器(ヤマハ)やオートバイ(ホンダ、スズキ)などが有名です。
● 瀬戸内工業地域:阪神工業地帯と北九州工業地帯の間に位置します。
岡山県倉敷市の石油化学コンビナート(水島コンビナート)などが有名です。
● 京葉(けいよう)工業地域:京浜工業地帯の東側、千葉県の東京湾岸に位置します。
鉄鋼や石油化学などの素材型産業が中心です。
高速道路網の整備により、関東内陸工業地域や中央高地工業地域など、内陸部でも工業が発展するようになりました。
これらは地価が安く、広い土地を確保しやすいため、自動車の組み立て工場や、きれいな水や空気が不可欠なIC(集積回路)などの工場が立地しています。
日本の工業は、原料の輸入や製品の輸送に便利な太平洋ベルトに集中しています。
その中核をなすのが京浜・中京・阪神・北九州の四大工業地帯です。
時代と共に、中京が自動車産業でトップに立ち、北九州が自動車やIC産業で復活を目指すなど、各工業地帯の得意分野や地位は変化しています。
また、高速道路の発達により、内陸部にも新しい工業の拠点が広がっています。
このように、日本の工業は、社会や経済の変化に対応しながら、その姿を変え続けているのです。