「子供が両親に似る」というのは、誰もが知っている当たり前の事実です。
しかし、なぜ似るのでしょうか?
また、両親にはない特徴がおじいちゃんやおばあちゃんから現れることがあるのはなぜでしょう?
その謎を解くカギが「遺伝」です。
ここでは、遺伝の規則性を発見したメンデルの法則と、その指令を出す遺伝子の正体であるDNAについて、詳しく解説していきます。
19世紀、オーストリアの修道士メンデルは、エンドウの栽培実験を通じて、親の形質(形や性質)が子に伝わる際の、驚くほどきれいな規則性を発見しました。
これがメンデルの法則の基礎となります。
形質(けいしつ): 生物が持つ形や性質のこと。
(例:エンドウの種子の形、ヒトの血液型など)
対立形質(たいりつけいしつ): 「種子の形が丸いか、しわか」「花の色が赤か、白か」のように、どちらか一方しか現れない、対になる形質のこと。
遺伝子(いでんし): 形質を決める、親から子へ受け継がれる情報のこと。
純系(じゅんけい): 何代自家受精をくり返しても、親と全く同じ形質の子しか生まれない系統。
優性の形質と劣性の形質:
対立形質を持つ純系同士(例:丸い種子としわの種子)をかけ合わせると、子(雑種第1代)には一方の形質(この場合は「丸」)しか現れません。
このとき、子に現れた形質を優性の形質、現れなかった形質を劣性の形質といいます。
「優性」「劣性」は、形質の優劣や良し悪しを意味する言葉ではありません。
単に子に「現れやすいか(顕性)」「隠れやすいか(潜性)」かを示す言葉です。
メンデルは実験から、遺伝にはいくつかのルールがあることを見抜きました。
まず、メンデルは形質を決める「遺伝子」が、父親由来のものと母親由来のものでペア(対)になって存在していると考えました。
優性の遺伝子を大文字のアルファベット(例:A)、劣性の遺伝子を小文字(例:a)で表します。
エンドウの種子の形なら、丸が優性(A)、しわが劣性(a)です。
純系の「丸」は AA、純系の「しわ」は aa という遺伝子のペアを持っています。
「対になっている遺伝子は、生殖細胞(精子や卵)が作られるとき、分かれて別々の細胞に入る」という法則です。
これをエンドウの実験で見てみましょう。
親の代: 純系の「丸(AA)」と純系の「しわ(aa)」をかけ合わせます。
生殖細胞:
丸(AA)の親は、Aの遺伝子を持つ生殖細胞しか作れません。
しわ(aa)の親は、aの遺伝子を持つ生殖細胞しか作れません。
子の代(雑種第1代):
子が持つ遺伝子の組み合わせは Aa の一通りだけです。
A(丸)が優性なので、子の形質はすべて「丸」になります。
(←これを優性の法則と呼ぶこともあります)
孫の代(雑種第2代):
子(Aa)を自家受精させます。
分離の法則により、子(Aa)が作る生殖細胞は、Aを持つものとaを持つものが1:1の割合でできます。
これらの生殖細胞がランダムに受精すると、孫の遺伝子の組み合わせは、AA:Aa:aa = 1:2:1 の割合になります。
| A | a | |
|---|---|---|
| A | AA (丸) | Aa (丸) |
| a | Aa (丸) | aa (しわ) |
孫の形質:
遺伝子の組み合わせが AA と Aa のものは、優性である「丸」になります。
遺伝子の組み合わせが aa のものだけが、劣性である「しわ」になります。
その結果、孫の代では「丸」:「しわ」が 3:1 の比で現れるのです。
このように、一度は隠れた劣性の形質が、孫の代で再び現れるのは「分離の法則」によって説明できます。
メンデルが「遺伝子」と呼んだものの正体は、20世紀になってから解明されました。
それがDNA(デオキシリボ核酸)です。
生物の体を作るためのすべての情報が書き込まれた「生命の設計図」です。
細胞の中にある核。
その核の中にある染色体。
その染色体を構成している本体がDNAです。
生殖細胞(精子や卵)には、親が持つ染色体の半分が入っています。
受精によって、父親と母親から半分ずつ染色体(DNA)を受け継ぐことで、子は両親の設計図の一部を引き継ぐのです。
メンデルはDNAの存在を知らない時代に、エンドウの観察だけで、その見事な規則性を数学的に解き明かしました。
彼の発見は、現代の生命科学の基礎を築く、非常に偉大な業績なのです。