スマートフォンやゲーム機、懐中電灯など、私たちの生活は「電池」なしでは成り立ちません。
この小さな箱は、一体どうやって電気を生み出しているのでしょうか?
その秘密は、金属が「イオン」になろうとする性質と、それに伴う「電子」の移動に隠されています。
ここでは、電池の基本的な原理から、その仕組みを巧みに利用した「ダニエル電池」まで、イオンの視点で詳しく解説します。
電池が電気を生み出すための最低限の材料は、以下の3つです。
2種類の異なる金属
電解質水溶液(イオンを含み、電気を通す液体)
そして、最も重要なキーポイントが、金属の種類によって「イオンへのなりやすさ」が違うということです。
イオン化傾向: 金属が水溶液中で電子を放出して、陽イオンになろうとする性質のこと。
イオン化傾向の差: イオンになりやすい金属と、なりにくい金属がある。
例:亜鉛(Zn)は、銅(Cu)よりもイオン化傾向が大きい(=亜鉛の方がイオンになりやすい)。
この「イオンになりたい!」という性質の差が、電子を押し出す力となり、電流を生み出す原動力になるのです。
最もシンプルな電池のモデルとして、亜鉛板と銅板をうすい酸性の水溶液(電解質水溶液)に入れた場合を考えてみましょう。
(これはボルタ電池の原理です)
イオン化傾向の大きい(イオンになりやすい)亜鉛板で反応が起こります。
亜鉛原子(Zn)が、持っている電子(e⁻)を2つ放り出して、亜鉛イオン(Zn²⁺)として水溶液中に溶け出します。
化学式: Zn → Zn²⁺ + 2e⁻
原子が電子を放出した結果、亜鉛板には電子が余った状態になります。
そのため、亜鉛板がマイナス極になります。
イオン化傾向の小さい(イオンになりにくい)銅板では、自分は溶け出さず、代わりにマイナス極から導線を通って流れてきた電子を受け取る役割をします。
水溶液中にある水素イオン(H⁺)が、銅板にやってきた電子(e⁻)を受け取ります。
電子を受け取った水素イオンは、水素原子(H)になり、2つ集まって水素分子(H₂)という気体になって発生します。
化学式: 2H⁺ + 2e⁻ → H₂
電子を受け取る(消費する)側なので、銅板がプラス極になります。
このとき、電子はマイナス極(亜鉛板)から導線を通ってプラス極(銅板)へと移動します。
この電子の流れが、電流の正体です。
(※電流の向きは、電子の流れとは逆向きの、プラス極からマイナス極へと定義されています。)
上記のシンプルな電池では、プラス極で発生する水素の泡が銅板を覆ってしまい、すぐに電圧が下がってしまうという欠点がありました。
この問題を解決したのがダニエル電池です。
マイナス極側: 亜鉛板を硫酸亜鉛水溶液に入れる。
プラス極側: 銅板を硫酸銅水溶液に入れる。
仕切り: 2つの水溶液が混ざらないように、イオンだけが通れるセロハン膜(または素焼き板)で仕切る。
マイナス極(亜鉛板):
しくみは同じです。
亜鉛(Zn)が溶けて亜鉛イオン(Zn²⁺)になります。
Zn → Zn²⁺ + 2e⁻
プラス極(銅板):
ここがボルタ電池と大きく違います。
導線を通ってきた電子(e⁻)を、水溶液中の銅イオン(Cu²⁺)が受け取ります。
電子を受け取った銅イオンは、銅原子(Cu)となって銅板の表面に付着(析出)します。
Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu
水素が発生しないため、安定した電流を長く流し続けることができます。
| マイナス極 (亜鉛板) | プラス極 (銅板) | |
|---|---|---|
| 起こる反応 | 亜鉛が溶ける | 銅が付着する |
| イオン式 | Zn → Zn²⁺ + 2e⁻ | Cu²⁺ + 2e⁻ → Cu |
| 板の質量の変化 | 軽くなる | 重くなる |
このように、電池は2種類の金属と電解質水溶液の間で起こる化学変化(酸化還元反応)を利用して、化学エネルギーを電気エネルギーへと変換しているのです。